あなた好みの・・・・・

ミズモリ ショウ
準 星


 ぼくが彼女にあったのは、高校時代のクラブのOB会(要するに飲み会)の時だった。かわいい娘だなぁと思って、声
をかけたかったが、他の男たちに蹴倒されて近づく事もままならなかった。
 だから、驚いたんだ。
 次の日の夜、彼女の方から電話がかかってきた。
それから、電話する度にお互いがひかれてゆくのがわかった。
 出会ってまだ間もないのに、全く違和感を感じなかった。だから、何回目かのデートでそういう関係になってしまった
としても当然といえば当然であったろう。
 初めての時彼女が「あなたが想ってくれるのなら、私はあなた好みの女になるわ」そう言ってくれたのが嬉しくてしよ
うがなかったのを今でも鮮明に憶えている。
 ただ、彼女の家は仕事帰りにちょっと逢えるというほど近くではなかった。
 だから、必然、逢えるのは土曜か、日曜。しかもぼくの仕事がら土日に出勤する事も少なくなかった。そういう週は長
電話をするのがきまりのようになっていた。
 ところが、ある時いくら電話しても出ない日が何日か続いた。理由を電話で聞いてもお茶を濁すだけで、返事を渋るよ
うになった。
 以前は何でも話してくれる娘だった。
 ぼくは突然不安に襲われた。
 まさか、ぼく以外に・・・・・と。
 そして、待っていたかのように彼女が別の男と街を歩いているという噂が飛び込んできた。信じられなかった。しかし、
妙に納得もできた。
 それ以来、彼女と逢っても何を話してもそらぞらしく感じられて、早々に別れる事が多くなった。
 彼女はぼくの事を心配して、こまめに電話をくれるようになったのだが、ぼくは妙に屈折した考え方をしはじめた。彼
女は他に男が出来た事を悟られまいとしているのに違いない、と思うようになった。
 そのうち、彼女の心もぼくから離れて行った。
 しかし、ぼくは、そうはいっても彼女を自分以外の誰にも渡したくなかった。
 彼女の目が次第にぼくをうっとうしく感じているように見えてきた。別れたいと思っているのに違いないと。
 ぼくは、彼女を放さない。何があっても。
 そのうち、彼女が他の男を見るだけで辛辣(シンラツ)な言葉を浴びせるようになった。その度に彼女は苦痛に顔を歪めた。
彼女も限界にきてるのだ。
 しかし、ぼくから離れるには殺すしかない。彼女は自由になるためにぼくを殺しに来るかもしれない。
 バカげた話しだった。そう、そのはずだった。
 しかし、今、ぼくの薄れて行く意識の中でぼんやりと見えているものは、血塗れのナイフを持った彼女の呆然とした顔。
 その顔を見ながら、初めての夜、彼女が言った言葉を思い出していた・・・。

                               ”あなた好みの・・・・・”  END


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